英語IR協会準備室

英語IRコンサルタント西村麻美のブログ

経営不振のパイオニア、実質投資ファンド傘下で経営再建へ

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深刻な経営不振にあえぐパイオニアが香港を本拠地とする投資ファンドベアリング・プライベート・エクイティ・アジアの資金で再建を目指すことが11日分判明と日経新聞が12日報道。融資と出資の合計で600億円規模の資金支援を受け、筆頭株主として迎え入れる。

 

イオニアは2018年4~6月期で売上高は前年同期比0.6%増の838億円、営業損益は15億円の赤字(前年同期は2億円の赤字)、最終損益は66億円の赤字(同20億円の赤字)を計上し、決算短信で「継続企業の前提に疑義が生じている」と記載された。現預金は3月末より66億円減り、6月末には290億円。赤字幅拡大の要因の一つに欧州企業との特許訴訟や、欧州での競争法違反による特別損失33億円の計上がある。

 

昨年の東芝、また8月に4~6月期決算を発表した大塚家具も継続企業の前提に疑義が生じていると決算短信に記載されたが、パイオニアの場合は18年3月期まで2年連続で連結最終損益の赤字を計上しており、経営改善計画の具体化が遅れ、三菱UFJ銀行をはじめとする取引銀行から借入金借り換えの合意が得られていないため疑義が生じた。

 

イオニアの過去3期の連結本決算は以下の通り。

決算期 2018年3月期 2017年3月期 2016年3月期
売上高 365,417百万円 386,682百万円 449,630百万円
営業利益 1,194百万円 4,167百万円 7,304百万円
経常利益 -3,121百万円 2,966百万円 7,250百万円
当期利益 -7,123百万円 -5,054百万円 731百万円
EPS(一株当たり利益) -19.12円 -13.76円 1.99円
調整一株当たり利益 --- --- 1.93円
BPS(一株当たり純資産) 212.84円 224.72円 233.32円
総資産 287,510百万円 281,786百万円 298,012百万円
自己資本 80,520百万円 82,516百万円 85,675百万円
資本金 92,881百万円 91,732百万円 91,732百万円
有利子負債 50,078百万円 39,292百万円 37,328百万円
自己資本比率 28.00% 29.30% 28.70%
ROA総資産利益率 -2.50% -1.74% 0.23%
ROE自己資本利益率 -8.74% -6.01% 0.78%
総資産経常利益率 -1.10% 1.02% 2.32%

 

ベアリングが月内に250億円をパイオニアに融資し、パイオニアは9月下旬に期限が迫る銀行借り入れの返済に充てる。その後、第三者割当増資などを実施する方向との事。


 さて、この250億円の融資の仕組みであるが、ストレートなローンではなくDES (デット・エクイティ・スワップ)をベースとしたものである。DESとは債務の株式化であり、通常金融機関が経営不振の取引先を支援する目的で使われる。

 

DESを利用し、債務者側では債務超過の状況が解消され、有利子負債が削減されることでキャッシュアウトが抑制される。債権者側は債務と交換に株式を受け取ることにより、株主として経営に影響を持つ。

 

イオニアがベアリングから受けたDESを含むローンの場合、デジタル地図データを手がける優良子会社のインクリメント・ピー(IPC)がローンの担保になっている事がポイントである。IPCの2018年3月末の売上高は109億円、当期利益は14億7800万円。IPC社の業務内容は地図データベース整備・開発・販売でカーナビやスマホアプリなど広く活用されている地図データベースを整備して、国内外の各企業の要望に応じ最適化して提供することとある。業務内容と売上、利益規模でIPOをしてもおかしくない企業だとの印象を受ける。おそらくベアリングはIPCのIPOも視野に入れていると思われる。

 

イオニアの11日時点の時価総額は約490億円。現行の筆頭株主三菱電機の持ち株比率は約7%。ベアリングはDESで債務が株式になると発行済株式の過半数を取る事になるだろう。

 

9月7日にパイオニア自動車産業向けのファクトリーオートメーション(FA)事業を手掛ける連結子会社東北パイオニアEGの全株式をデンソーに109億円で売却と発表し、資金繰りに注力してきた。2019年3月末までにさらに210億円の長短借入金を返済しなければいけない事を考えると手遅れにならないうちにベアリング傘下で経営立て直しを図るとの判断は正しいと思う。

 

追記

1.9月7日、日本格付研究所(JCR)、パイオニアの長期発行体格付けを「#BBB-」から「#BB+」に引き下げたと発表した。クレジット・モニター(ネガティブ)は継続する。

 

2.9月12日午前発表のパイオニアのプレス・リリースによるとベアリングからのスポンサー支援の基本合意書を締結。ブリッジ・ローンを9月18日に実行後、正式契約を10月末までに締結予定、第三者割当を12月末日までに振込みの予定。9月12日午前の株式市場では第三者割当増資の真偽を確認するため9時40分まで売買停止。後に取引再開後、第三者割当増資、DESによる株式希薄化を嫌気して一時、前日の終値より13%安まで売り込まれた。

 

 

 

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稀代の天才起業家は資本市場に完全敗北か

www.cnbc.com

イーロン・マスク氏率いるテスラ社が資本市場で大変な事になっている。7日木曜日にテスラ社は一ヶ月前に最高会計責任者として就任したばかりの幹部の辞職を発表。これを受けてテスラ株は一時9%下落し、二年ぶりの大幅安。同日マスク氏はコメディアンのJoe Rogan氏のポッドキャストにウィスキーを飲み、大麻を吸いながら出演。この行為はテスラ社の行動規範に反しているのではないかと大騒動になった。

一夜明けて8日金曜日にテスラ社の社債が大暴落。2025年償還予定の社債価格が最安値をつけ、市場利回りが8.89%まで上昇。すでにテスラ社の信用格付はS&P、Moody's両社からネガティブの格付けを付与されており、テスラ社の社債は投資不適格とみなされている。公定歩合が2%の米国で8.89%の利回りとは資本市場からほぼ投資回収不能の烙印を押された印象が強い。

8月上旬に第2四半期の業績を発表したテスラ社だが、Model 3の生産台数が計画を下回り、フリー・キャッシュフローは一向に改善せずという内容だった。

7日木曜日の終値ベースでのテスラ社の時価総額は447億ドル。第2四半期末の負債合計額が226億ドル。時価総額の約50%が負債。IPOをして8年も経っている会社の時価総額の半分が負債とは個人的に合格点とは言い難い印象を受けた。

また7月末にタイムライン上で保守的なアメリカ人機関投資家の見方を紹介したが

”テスラ社は2010年のIPO以来2018年4月末まで累計189億あまりの資金を調達し、2010年から2018年4月末までで累計87億のネガティブ・キャッシュフローしか生み出せていない。過去3年間、設備投資で63億ドルを使い、営業レベルで30億ドルの損失はもはやビジネス・モデルとして成り立つには程遠い。”

私も上記意見に全く賛成である。マスク氏は2010年のIPO以来2018年4月末まで累計87億のネガティブ・キャッシュフローしか生み出せていない。これは世界的な上場企業の経営者としては失格だろうと個人的に考えている。

また私はIR(インベスター・リレーションズ)の観点からマスク氏は上場企業の経営者として失格だと思っている。マスク氏は今年のエイプリル・フールに”テスラ社は破綻した。”とのツイートから始まり、8月8日には”テスラ社の非上場化を考えている”とツイートし、資本市場を大混乱に陥れた。この発言についてはアメリカ証券取引委員会がいまだに調査中であり、一部株主は訴訟の手続きを始めている。

18日後の8月26日には非上場化の考えを撤回。その理由としてテスラ社の投資家と協議を行い、当初考えていたよりも非上場化への道のりが険しいものだとわかったと発表。

個人的な見解だが、マスク氏は天才的な起業家であるものの、上場企業のCEOとしては不適格だと思う。世界的な企業のトップとしてテスラ社の顧客、メディア、株主、債権者、取引相手、下請け企業などの様々なステイクホルダーを考えているようには思えない。

起業家とは違い、上場企業のトップは様々なルールにのっとって勝負しなければいけない事を考えるとマスク氏は全く不適格な印象がある。ステイクホルダー達の利益とマスク氏の自由奔放なツイートは相容れないようにしか見えない。

市場でずっとテスラ社のカウントダウンがささやかれてきたが、ここ数日の動きを見ると年末までに破綻しても全くおかしくないと個人的には思っている。

仮にテスラ社が破綻してもスペースXプロジェクトとLAの地下を掘る渋滞解消プロジェクトに心おきなく専念でき、マスク氏本来の才能をいかんなく発揮できて今の状況よりはるかに幸せなのではないか。

 

テスラ株に対する資金調達とキャッシュフローの観点からの見方

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8月1日の2Qの決算発表を前にして部品メーカーに対して支払済み代金の返金の要求や、それを受けてのCredit Default Swapの急上昇などテスラ社の破綻リスクはいつになく高まっているが、米国人投資家の同社に対する見方を紹介したい。

3ヶ月前に米国版ForbesでJim Collinsというアナリスト出身の投資家がテスラ社に関してのコラムを書いている。

以下、Forbes.comより抜粋(資金調達とキャッシュフローの表を含む)

 Each tweet from CEO Elon Musk is parsed ad nauseumand sensational headlines scream about the company's production rates and customers' experience with its products. As an investor, though, that wall of noise is, unfortunately, just noise. What is needed to analyze Tesla stock—as opposed to the Tesla Phenomenon—is a simple, dispassionate reading of Tesla's financial statements.

Musk and Tesla are incredibly skilled at raising capital and Tesla Inc. is incredibly unprofitable. Since the year of its IPO in 2010, Tesla has raised $19 billion in capital and produced negative cash flow of $9 billion. The table at the end of this column shows all the details.

Tesla’s need for additional capital is so acute because its massive cash burn in the past three years has been paired with massive capital investments to fund future projects. In the past three years, Tesla has lost $3 billion on an operating basis and spent $6.3 billion on capital. That is not a sustainable operating business model. Not even close. 

Tesla was barely able to produce positive EBITDA in 2017 ($3.9 million on $11.8 billion in revenues) and with a current enterprise value of $53.4 billion ($46.6 billion in equity plus $6.8 billion in net debt,) TSLA is trading at a mere 13,690 times its trailing EBITDA.

$; mm  '10 '11 '12 2013 2014 2015 2016 2017 '10-'18
 Capital Raised                  
common stock  269 231  221  360  0 730 1.701 400  3,914
debt 0  72  204  666  2,300 319 2,853 7,138  13,552
stock options 1  11  25  95  100  107  164  259  762
warrants        120  389     53 562
 TOTAL  270  314  451  1,242  2,790  1,156  4,719  7,850  18,790
                   
                   
 Cash Flow                  
operating loss  -147 -251 -394 -61 -187  -717 -667  -1,632  -4,057
deprec.  11  17  29  106 232  423  947 1,636  3,400
capital exp.  40 198 239  262  970 1,635 1,280 3,415  8,042
operating CF  -176 -432 -605  -219  -924 -1,929 -1,001 -3,411  -8,698

長年のアナリスト経験を経て投資家として独立したCollins氏のテスラ社に対する見方はとても批判的だ。しかし、ファンダメンタル分析を重視するアナリスト達は皆同様の考え方だろう。

 

 テスラ社を分析するのに必要なのは熱狂に近いテスラ現象と財務データをきっちり分ける事。テスラ現象は単なるノイズに過ぎない。

 

Collins氏によると、テスラ社は2010年のIPO以来2018年4月末まで累計189億あまりの資金を調達し、2010年から2018年4月末までで累計87億のネガティブ・キャッシュフローしか生み出せていない

 

過去3年間、設備投資で63億ドルを使い、営業レベルで30億ドルの損失はもはやビジネス・モデルとして成り立つには程遠いと一刀両断。

 

コラムが書かれた2018年4月時点でテスラ社の株価は実績EBITDAの13690倍とあまりに過大評価されていた。

 

Bloombergがテスラ社のキャッシュ・フロー・チャートの図をまとめている。

 

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図で見てみるとテスラ社のキャッシュ・フローはModelが新しくなる毎に悪化するのみである事がわかる。

 

IRの観点から考えるとマスク氏のTweetは口は災いのもとの様相を呈している。2018年のエイプリル・フールではテスラ社は潰れましたとの悪いジョーク、先日タイで少年達を救出したダイバーに対する罵倒など世界的有名企業のCEO、しかも資金繰りが危ないと常に不安視されている中で自分のTweetが原因でどれだけ時価総額を減らしているのか自覚がないのが怖い。

 

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Facebook 2Q決算発表 売上、DAU共市場予想未達で大幅安 成長路線に陰りか

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www.reuters.com

❐ EPS $1.74 vs 市場予想$1.72

❐ 売上高1323億ドル vs 市場予想1336億ドル

❐ グローバルDAU 147億人 vs 市場予想149億人

❐ ARPU $5.97 vs 市場予想 5.95

 

また、ニューヨーク・タイムズ紙がFacebookの中国での新規事業の認可が取り消されたとも報じており、成長路線に陰りが出た可能性もある。

 

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返金要請でテスラのデフォルト確率上昇

www.bloomberg.co.jp

5年物のクレジット・デフォルト・スワップCDS)で同社債を保証するコストは23日に急上昇し前払いが20.1ポイントと、5年以内のデフォルト(債務不履行)確率42%前後を示唆する水準となった。これは今月の取引開始以降で最高レベルにとブルームバーグの報道。3月末時点では流動性は12ヶ月分。

Pinterest(ピンタレスト)2019年2QにIPOの可能性

 

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写真共有メディアのピンタレストが来年後半にIPOかとCNBC.comが報じている。  

以下英文はCNBC.comより

 

Pinterest nears $1 billion in ad sales and valuation rises as it looks to go public in mid-2019

  • Pinterest is poised to almost double revenue this year, getting close to $1 billion, according to people familiar with the matter.
  • The company is aiming to go public by mid-2019, and has a current valuation of $13 billion to $15 billion, based on secondary market trading, multiple people say.
  • Pinterest's mobile search capabilities are attracting advertisers  as the site becomes a more popular place for big fashion and beauty brands to get in front of the company's 200 million monthly active users.

ピンタレストは2013年に2億2500万ドルを私募株式で調達後、昨年売上が5億ドルを突破し、今年は倍の10億ドル近くになる模様。IPO時の時価総額は130億ドルから150億ドルに達すると言われている。

月間アクティブユーザー数は2億人で、ファッションや美容関連企業からのモバイル広告需要が特に好調である。

2019年はUberAirbnbIPOすると言われており、大型IPOが続きそうだ。

 

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資金繰りが心配されるテスラ

www.wsj.com

テスラが取引先の部品メーカーに対して既に支払い済みの代金の一部を返却を要求している事がWall Street Journalの調べで明らかになり資金繰りが心配されている。

 

Tesla will need to pay down a $230 million convertible bond this November if its stock doesn’t reach a conversion price of $560.64, and a $920 million convertible note next March if the stock doesn’t reach $359.87. Shares closed Friday at $313.58, and are down about 4.5% over the past 12 months.

 

 2018年11月に株価が560.64ドルの行使価格を上回らないと転換社債型新株予約券付き社債2億3000万ドルが必要になる。先週金曜日のテスラ株の引け値は313.58ドルであり、行使価格まで78%も株価が上昇する必要がある。

 

2018年1-3月期にテスラは

❐五期連続最終赤字、過去最大の7億955万ドルの最終赤字

❐フリーキャッシュフローはマイナス10億5000万ドル

❐2018年3月末時点の手元資金は26億7000万ドル

 

2018年3月末にムーディーズグループ全体の長期格付け)を「B2」から「B3」へ格付けに対する見通し(アウトルック)も「安定的」から格付けを引き下げ方向で見直すことになる「ネガティブ」に引き下げ。

 

2018年4-6月期に生産台数、販売台数ともに過去最高レベルを達成し、モデル3が最多になった。

 

8月第一週に4-6月期の業績を発表する予定だが、支払い済みの代金をかき集めなければならないほどの大変な事態である事は間違いない。

 

 

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