英語IR協会準備室

英語IRコンサルタント西村麻美のブログ

稀代の天才起業家は資本市場に完全敗北か

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イーロン・マスク氏率いるテスラ社が資本市場で大変な事になっている。7日木曜日にテスラ社は一ヶ月前に最高会計責任者として就任したばかりの幹部の辞職を発表。これを受けてテスラ株は一時9%下落し、二年ぶりの大幅安。同日マスク氏はコメディアンのJoe Rogan氏のポッドキャストにウィスキーを飲み、大麻を吸いながら出演。この行為はテスラ社の行動規範に反しているのではないかと大騒動になった。

一夜明けて8日金曜日にテスラ社の社債が大暴落。2025年償還予定の社債価格が最安値をつけ、市場利回りが8.89%まで上昇。すでにテスラ社の信用格付はS&P、Moody's両社からネガティブの格付けを付与されており、テスラ社の社債は投資不適格とみなされている。公定歩合が2%の米国で8.89%の利回りとは資本市場からほぼ投資回収不能の烙印を押された印象が強い。

8月上旬に第2四半期の業績を発表したテスラ社だが、Model 3の生産台数が計画を下回り、フリー・キャッシュフローは一向に改善せずという内容だった。

7日木曜日の終値ベースでのテスラ社の時価総額は447億ドル。第2四半期末の負債合計額が226億ドル。時価総額の約50%が負債。IPOをして8年も経っている会社の時価総額の半分が負債とは個人的に合格点とは言い難い印象を受けた。

また7月末にタイムライン上で保守的なアメリカ人機関投資家の見方を紹介したが

”テスラ社は2010年のIPO以来2018年4月末まで累計189億あまりの資金を調達し、2010年から2018年4月末までで累計87億のネガティブ・キャッシュフローしか生み出せていない。過去3年間、設備投資で63億ドルを使い、営業レベルで30億ドルの損失はもはやビジネス・モデルとして成り立つには程遠い。”

私も上記意見に全く賛成である。マスク氏は2010年のIPO以来2018年4月末まで累計87億のネガティブ・キャッシュフローしか生み出せていない。これは世界的な上場企業の経営者としては失格だろうと個人的に考えている。

また私はIR(インベスター・リレーションズ)の観点からマスク氏は上場企業の経営者として失格だと思っている。マスク氏は今年のエイプリル・フールに”テスラ社は破綻した。”とのツイートから始まり、8月8日には”テスラ社の非上場化を考えている”とツイートし、資本市場を大混乱に陥れた。この発言についてはアメリカ証券取引委員会がいまだに調査中であり、一部株主は訴訟の手続きを始めている。

18日後の8月26日には非上場化の考えを撤回。その理由としてテスラ社の投資家と協議を行い、当初考えていたよりも非上場化への道のりが険しいものだとわかったと発表。

個人的な見解だが、マスク氏は天才的な起業家であるものの、上場企業のCEOとしては不適格だと思う。世界的な企業のトップとしてテスラ社の顧客、メディア、株主、債権者、取引相手、下請け企業などの様々なステイクホルダーを考えているようには思えない。

起業家とは違い、上場企業のトップは様々なルールにのっとって勝負しなければいけない事を考えるとマスク氏は全く不適格な印象がある。ステイクホルダー達の利益とマスク氏の自由奔放なツイートは相容れないようにしか見えない。

市場でずっとテスラ社のカウントダウンがささやかれてきたが、ここ数日の動きを見ると年末までに破綻しても全くおかしくないと個人的には思っている。

仮にテスラ社が破綻してもスペースXプロジェクトとLAの地下を掘る渋滞解消プロジェクトに心おきなく専念でき、マスク氏本来の才能をいかんなく発揮できて今の状況よりはるかに幸せなのではないか。