英語IR協会準備室

英語IRコンサルタント西村麻美のブログ

私的 2017年ベスト1書籍

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村上ファンド創始者村上世彰氏が自身の半生を書いた著作 
「生涯投資家」

2006年のインサイダー取引での逮捕が記憶に新しいが、
日本におけるアクティビスト投資家の先駆けの彼がどのような考えで上場企業との戦いを繰り広げたのかが知りたかった。

 

投資家、金融業界関係者、企業経営者必読の名著。

 

歯に衣着せぬ物言いが強烈で、自身運営のファンドのための「企業乗っ取り屋」のイメージが強かった。しかし、実は通産省の役人時代に研究したコーポレート・ガバナンス(投資先の企業で健全な経営が行われているか、また企業価値=株主価値を最大化するよう努力しているかを監督する規範)を信条とするバリュー投資家であった。

 

上場企業経営者はコーポレート・ガバナンスを遵守し、株主のために成長性の高い経営をしなければならない。利益成長を追求せず、運転資本をはるかに超えるキャッシュ、資産をためこみ、企業価値(=株価)が極端に割安に放置されている会社は自社株買いを行いROEを高めるか上場をやめてプライベート・カンパニーになるべきである、は全くの正論である。

 

村上氏が日本の上場企業で一番の問題であると考えているのは、コーポレート・ガバナンスがきかない事により、資金の循環が止まる事である。
株主価値の向上=>新たな成長分野への投資=>賃金上昇、新規雇用の創出=>経済成長のサイクルが生まれる。

 

現実として日本の上場企業で起きている事は内部留保が不必要にたまり、資金の流れを止めている企業があまりに多い。この事は過去四半世紀あまりの日米の株式市場の時価総額の差にはっきりと出ている。日本のTOPIX企業のPBR(株価純資産倍率)は平均1~1.3倍に対し、アメリカのS&P500企業のPBRは3倍弱。言い換えると同レベルの資産を持っていても日本企業の株価が三分の一ほど割安に放置されている。

 

90年代以降アメリカ企業の自己資本はあまり変わっていないのに、時価総額は大きく上昇している。この差の原因は投資家の期待値の差であり、リターンの差である。

 

企業の内部留保の問題で四半世紀あまりの経済停滞が起きている事をどれほどの上場企業経営者は真剣に考えて経営しているのだろうか。日本を代表する産業であった電機メーカーの没落、頻発する企業内不祥事などはすべてコーポレート・ガバナンスが働かなかった事の結果である。

 

コーポレート・ガバナンスの浸透と徹底こそ止まっている資金の循環を促し、日本の景気回復と経済成長に必要であるという村上氏の信念に大いに共感し、感動した。村上氏は投資事業からはほぼ引退し、東日本大震災の際の支援をはじめとしたNPO支援を積極的に行っている。この著作による収益は全て子ども達の投資教育、啓蒙活動に使うと名言しており、次世代の日本を誰よりも真剣に考えている慈善家である。そして自分が来年手がけようと思っている新規のプロジェクトへの思いを強くさせてもらえた貴重な一冊であった。