英語IR協会準備室

英語IRコンサルタント西村麻美のブログ

日本郵政長門CEOの英語でのプレスインタビュー

www.cnbc.com

民営化して11年が経つ日本郵政が経済専門チャンネルのCNBCで本日取り上げられていた。日本郵政を"one of Japan’s largest conglomerates"と表現する事にやや違和感があるが、ゆうちょ銀行、かんぽ生命などの他に今年初めに1200億円規模のPE投資会社もしている金融コングロマリットである。

日本郵政と言えば、東芝出身の前社長西室氏が社長の2015年にオーストラリアの物流会社トール社を6200億円で買収し、2017年3月期に4000億円の減損損失を計上し、民営化後初めて赤字に陥った事が記憶に新しい。

政府及び地方公共団体が56.87%も発行済み株式を保有しているため、株主からのプレッシャーは他の上場企業に比べ低いだろうが、オーストラリアの巨額損失にこりずにシンガポールをハブとした中国、東南アジアにわたる物流事業に新規に参入する。

アジアでの新規事業自体は全く珍しくないが、私が注目したのは現CEOの長門氏の英語でのインタビューである。CNBCの記事内に3分あまりのインタビュー動画があるので是非聞いてもらいたい。70歳近い方とは思えないほどの堂々たる英語で経営戦略について英語でインタビューに答えている。

これが同時通訳の声が入っていたらCNBCの視聴者にはアピールしないだろう。以前の記事でも書いたが日本以外のアジア企業のトップは通訳なしでインタビューに応じるのが普通である。

長門CEOは、低金利下で金融ビジネスからの収益拡大が見込めない事、元国営企業であった事から保険ビジネスに関しては他の民間企業に比べて規制がある事から、拡大するアジア経済の中で物流事業に参入する事でこれからの利益拡大を目指すという内容を3分という限られた時間で、実にロジカルに無駄なく説明している。

経営者の英語コーチも手掛けている私はこれは相当な練習をしているとすぐに聞いてわかるが、いくら英語ができる人でもメディア・インタビュー、投資家との1-on-1インタビュー、プレゼンテーションをするには相当の準備が必要であり、ネイティブ・スピーカーでもスピーチやプレゼンテーションの前には相当練習をしているのである。

 

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上場日本企業のコーポレート・ガバナンスに影響を与えたアクティビスト・ファンド

アクティビストという言葉が日本株市場で使われるようになり数年経つが、まずアクティビストの定義は野村證券の証券用語解説集によると

 

株式を一定程度取得した上で、その保有株式を裏づけとして、投資先企業の経営陣に積極的に提言をおこない、企業価値の向上を目指す投資家のことをアクティビストという。 いわゆる「物言う株主」で、経営陣との対話・交渉のほか、株主提案権の行使、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘等をおこなうことがある。

 である。

現在日本株に投資するアクティビスト・ファンドで有名なファンドはアメリカのサード・ポイントがある。サード・ポイントの運用資産は175億ドルで、1995年のファンド開始以来の平均リターンは15.7%。

サード・ポイントは日本株のコーポレート・ガバナンスに大きな影響を与えたファンドなので以下にまとめる。

❐ 2013年5月にソニー株を6%取得。”エンタテインメント部門の株式の15~20%を公開し、得られる資金でエレクトロニクス部門の立て直しに使う事”を提案。しかし、ソニーはエンタテインメント部門と他部門はシナジーがあるとして分離提案を拒否。ソニー側は妥協案としてエンタテインメント部門の財務数字のディスクロージャーの改善を約束。

❐  2014年後半にファナック株を取得。当時ファナックはIRや財務体質(キャッシュをためこんで、株主還元が低い)事を批判されており、トップは投資家と直接会う事も殆どなかった。2015年にサード・ポイントのCEOはファナックのトップと会談をし、2016年4月から総還元性向を最大80%に拡大すると約束し、IRも改善。

❐  2015年からブン&アイグループ株を取得。業績が悪化している傘下のヨーカ堂を分離させて再建すべきだとの提案の他、7-11の井阪社長を交代させる人事案にも反対。セブン&アイの取締役にレターを送り、”鈴木会長が息子の鈴木康弘氏を7-11の社長に就けるという噂があるが、トップとしての判断力に重大な疑問がある”と世襲人事を批判。鈴木会長は引責辞任し、引退。

サードポイントの株主提案以降日本でも株主提案の数が年々増えており、グローバル基準のIRがますます求められている。

 上場日本企業の経営者にとり、アクティビスト・ファンドはうるさい存在であるかもしれないが、コーポレート・ガバナンスの改善から株主利益の拡大につながるので必要な外圧である。コーポレート・ガバナンスをないがしろにしたいい例が東芝である。

 

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Netflix 2Qの契約者数が会社予想を下回り株価大幅下落

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FANG銘柄のNetflixが2Qの決算を発表。

会社HPより株主向けレターから転載

 

July 16, 2018
Fellow shareholders,

We had a strong but not stellar Q2, ending with 130 million memberships. Membership growth was 5.2m, the same as Q2 last year, but lower than our 6.2m forecast. Earnings, margins, and revenue were all in-line with forecast and way up from prior year. Internet video is growing globally and we are fortunate to be one of the leaders. In addition to succeeding commercially, we are starting to lead artistically in some categories, with our creators earning enough Emmy nominations this year to collectively break HBO’s amazing 17-year run.

 

Q2 Results and Q3 Forecast
Streaming revenue in Q2 rose 43% year over year, driven by a 26% and 14% increase in average paid memberships and ASP, respectively. Operating margin of 11.8% expanded 720 bps year over year, resulting in 262% growth in operating income. EPS of $0.85 vs. $0.15 included an $85 million non-cash unrealized gain from F/X remeasurement on our Eurobond. As a reminder, the quarterly guidance we provide is our actual internal forecast at the time we report and we strive for accuracy, meaning in some quarters we will be high and other quarters low relative to our guidance. This Q2, we over-forecasted global net additions which amounted to 5.2m vs. a forecast of 6.2m and flat compared to Q2 a year ago, as acquisition growth was slightly lower than we projected.
Paid net adds totaled 5.5m in Q2, compared with 4.7m last year and forecast of 6.1m.

US net adds of 0.7m (vs. guidance of 1.2m) were down vs. last year’s Q2-record 1.1m, but consistent with previous Q2 performance (0.5m in Q2’12, 0.6m in Q2’13, 0.6m in Q2’14, 0.9m in Q2’15, and 0.2m in Q2’16). Through the first six months of the year, our US net adds are slightly ahead of last year. Internationally, 4.5m net additions grew 8% year over year on broad market growth.

For Q3, we forecast global net adds of 5.0m (compared with 5.3m in Q3’17), with 0.65m and 4.35m in the US and international segment, respectively. Paid net adds are forecast to be 5.2m, up from 5.0m in Q3’17.

 

 

以下要約 
❏2Qの契約者増は会社側予想620万に対し前年同期並みの520万
❏ストリーミング売上は前年同期比43%増
❏営業利益率は前年同期比7.2%アップと大幅改善し、11.8%
❏営業利益率の大幅改善により2Qの営業利益は前年同期比262%増
❏一株当たり利益は会社側予想の0.15ドルを大幅に上回る0.85ドル
 大幅増はユーロ建て社債の為替による含み益8500万ドルを含む
❏有料会員数増は会社側予想610万に対し550万 
❏米国内の会員増は会社側予想120万に対し70万、前年同期の110万より低下
❏海外市場では8%増の450万
❏3Qの会社予想は全市場で500万増、うち米国内65万増、海外市場435万増
 
Amazonからの競争激化、またディズニーやAT&Tが買収したHBOもデジタル・コンテンツに注力している事から米国内での成長は鈍化とのアナリストの見方もある。
会社側はフリーキャッシュフローを30億から40億ドルの赤字予想を据え置きしている。
 

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ウォルマート、西友売却の予定はないと表明

jp.reuters.com

米ウォルマートは西友売却について正式に否定、日本事業の継続を表明。

2002年の包括事業提携から始まり、2008年に西友を完全子会社化。西友については上場廃止をしているため売上、利益ともに未公表。しかし、イオン、セブングループなどの大手GMSグループのスーパーマーケット事業の苦戦から察するに西友も相当苦戦しているのが想像できる。

そこで、ウォルマートの10-K(SECに提出する年次報告書)から日本事業について推測する。まずは連結ベースの直近(2018/1/31)の業績。

連結ベースの総売上高約5000億ドル、営業利益約200億ドル、当期利益約99億ドル

連結ベースのROAは5.2%(2017/1/31期は7.2%)、ROIは14.2%(2017/1/31期は15.2%)

ウォルマートの米国事業の営業利益率は5.6%(2017/1期は5.8%、2016/1期は6.4%)

ウォルマートの海外事業の営業利益率は4.5%(2017/1期は5.0%、2016/1期は4.3%)

西友の売上は推定年商7000億円(商業界online2018年7月13日付け記事より)店舗数は336店舗。

昨年一年間、ウォルマートは円建ての長期社債を計170億円、3回にわたり新規発行(10-Kより)

既に発行済みの社債の他、その他の借り入れも合わせ、10-Kによると円建ての長期負債残高は2018/1/31期に1800億円。2017/1/31期の100億円から実に18倍に膨れ上がっている。

負債の急増に関してはおそらく楽天との楽天西友ネットスーパー関連の事業のインフラ費用も含まれていると推測されるが、年商7000億円規模の事業に1800億円の負債規模は大きすぎる印象がある。

西友の店舗は老朽化が進んでおり、既存店舗の改装も必要であると推測され、楽天との事業提携の成りいきによっては16年間にわたる西友事業を売却する事も予想される。

 

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なぜ英語IR協会を設立しようと思ったか

なぜ日本において英語IR協会を設立する必要があるか

 

東京証券取引所時価総額ベースでは世界第三位であるが、Global Financial Centres Index (GCI)では、シンガポール、香港より低い5位にランクされている。金融市場としての東京の競争力の低下はキャピタルゲイン課税や取引所の時間の短さなどが考えられるが、上場企業の英語対応の遅れも東証地盤沈下の一因であると私は考えている。日本の株式市場に海外からの投資資金をもっと呼び込むためには上場企業のIRの国際化が欠かせないと考えている。

これはまったなしの状況である。2017年は中国の株式市場の国際化が進んだ年であった。A株がMSCI新興市場指数へ組み入れられ、中国の証券会社の海外進出が解禁された。中国は科学技術分野では日本、米国ともに抜き世界トップレベルになった。

世界の上場企業の時価総額ランキングでトップ20から日本企業は消え、中国企業は4社もランクインしている。これからもますます中国企業でグローバルにIPOをする企業が出てくるだろう。

もしかしたら近い将来MSCI Japan指数というものがなくなり、MSCI Chinaという指数が出てきて、日本株専門の外国人ファンド・マネージャーがいなくなるのかもしれない。上場日本企業の経営者は外国人投資家に選ばれるためにはもっと危機感を持った方がいい状況なのだ。

インベスター・リレーションズは諸外国ではプロフェッショナルな仕事である。MBAを持っている割合が多く、アナリスト・レベルの知識を持ちCEO、CFOの両方にリポートし、経営、財務に精通しており、キャリア・パスとして確立している。

日本企業ではどうかというと、一部のグローバル企業を除き、広報や経営管理部の人達が片手間にやっている事が多く、いわゆる本流の人達がやる仕事ではない。たまたま数年間IR担当になりましたという人達が殆どなので、財務分析の基礎的な事もわからない人達が多い。IRのプロフェッショナルがいない事に加え、外国人投資家対応になると外部の通訳に頼りっぱなしである。

上場日本企業の株主のうち30%強が外国人投資家であるが、さらにアクティビスト・ファンドが増えている。昨年11月の東芝の3000億円の第三者割当増資を引き受けたのは米アクティビスト・ファンド2社、またGPIFの委託運用会社もアクティビスト・ファンドが入っている。つまり、グローバル基準のIRが求められる時代になって来ている。

IRを担当している人材で、通訳なしで自社のいるマーケットの成長性、競争優位性を経営戦略、財務戦略に落とし込んで説明し、中長期的に「投資リターンを生み出すことができる」ことを外国人投資家に説得できる人がどの位いるだろうか?

ROEはすっかり浸透してきたが、資本コストになるとどうだろうか?企業価値の向上という事は良く言われるが、外国人投資家が最も重視するのは単なるROEではなく、資本コストを上回るROEであるという事をIR担当者で認識できている人の割合はとても低い。

上場日本企業ではIR業務というと開示義務というとらえ方をされるのが殆どであるが、IRは自社株のマーケティングという大きな役割がある。上場日本企業に業績連動、または株価連動の役員報酬制度も増えてきているが、株価を適正な水準まで上げるためには戦略的なIRに取り組むべきなのである。

昨今投資家とのエンゲージメントという言葉が良く使われるようになり、企業と投資家との建設的な対話というものが意識されるようになってきている。では上場日本企業と外国人投資家とのエンゲージメントはどうだろう。通常は証券会社のアレンジで海外の機関投資家訪問をするロードショーが行われるが、大抵の場合は通訳を連れて行く事が多い。しかし、これが中国人経営者だったらどうか。彼らはアクセントの強い英語でも気にせず堂々と通訳なしでのぞむ事がほどんどである。

通訳を介する事が不利であると考えられない経営者は考え方を改めた方がよい。顧客から預かる大切な資金を企業に投資するのに、通訳に頼りきりの経営者と決して流暢ではなくても英語で自分の考えを伝える経営者のどちらを信用するか。投資家の信用を得るために自社の経営方針について英語で伝えられる事は必須なのである。

グローバルに活動する企業、資金調達需要の高い成長企業、外国人投資家を獲得したい企業では国際水準のIRが不可欠であると考えている。実際のところIRのプロフェッショナルなキャリアがあり、かつ通訳なしで投資家と同等のレベルでディスカッションができる人材はほぼいないのが現実である。

外国人投資家向けのIR活動をサポートするために英語IR協会を設立し、企業内の人材の育成、教育をする事が急務であると私は考えています。

 

英語IR協会として手掛ける業務は以下になります

 1) 外国人投資家対応のIR業務のコンサルティング

 2)   IR担当者向けの財務分析、IRに必要な英語の研修

 3)  上場企業経営者の英語でのプレゼンテーション、スピーチのコーチン

お問い合わせはinfo.englishIR@gmail.comまで

 

西村 麻美 (にしむら まみ) 

東京都出身。獨協大学国語学部英語学科卒業。コーネル大学経営大学院修士課程修了。専攻はファイナンス

大学卒業後メリル・リンチ証券東京支店に就職。コーネルにてMBA修了後日本に帰国。HSBC 投信投資顧問、アライアンス・バーンスタイン東京支店にてアナリスト、ファンド・マネージャー、プロダクト・マネージャーとして勤務。

リーマン・ショックの一年後、子どもの学童年齢に合わせて退職しフリーランスへ転身。投資リサーチ、IRコンサルティング、IR、経営に特化した通訳、翻訳などを経て、英語IRコンサルティング、IR担当者、CEOのための英語コーチングに従事。現在英語IR協会設立準備中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルビー松本会長、ライザップへ

www.nikkei.com

このニュースは今年もっとも驚いたニュースだった。伝説の経営者松本氏がカルビー退任後にライザップに行かれるとは!数々のオファーの中からライザップを選ばれ、松本氏にこんな面白い人が日本にいるなんてと絶賛される瀬戸社長。

 

正直数々のM&Aを行っていてもグループとのシナジーが見えずらい印象だったライザップだが、松本氏を迎える事により、もっと評価されるようになるだろう。

 

松本氏が一流の経営者の条件として組織をちゃんと作れる人で、そのための人材を集めるスキルがあること。そして人の使い方がうまいこと。だから瀬戸君は成功する可能性が高いと思う、とまで言わせるなんて本当に驚く。

 

ジョンソン・エンド・ジョンソン時代には松本氏は2兆円の案件の経験があり、M&Aは株主のお金でやるわけだから相応の覚悟が必要と欧米的な経営感覚を持っている方なのでライザップにとっては鬼に金棒だ。

 

株式分割と394億円の公募増資を行うそうだが、なぜ札幌証券取引所から東証へとくらがえしないのかが少し不思議な気がする。

 

 

 

高値掴みのみで終わらなければいけない武田薬品のシャイアー買収

www.bloomberg.co.jp

武田薬品によるシャイアーの買収提案の約6兆5000億円、もし成立したらソフトバンクによる英半導体開発大手ARMの買収案件の3兆6000億円をはるかに超え日本企業による買収案件の最大規模になる。

 

希少疾患薬の分野が買収発表前のシャイアーの株価に50%ものプレミアムをつけるほど魅力があるのか不明。現金と新株発行で資金調達とあるけど、新株発行で4兆円規模はきつすぎる。

 

武田は経営陣は外国人だらけだし、本気でグローバルの上位の製薬会社になろうとしている。